
マーケター・思考設計士。個人や中小規模ビジネス向けに、マーケティング戦略のアドバイスを主におこなっている。
はじめにお話しておきたいのですが明確な目標を設定することは、
大抵のケースでは重要で有効なことです。
明確なゴールとしての目標を段階的に設定することで、
そこにいたるまでの道のりをイメージしやすくなる。
大きなゴールの間に小さなゴールをいくつも設定し、
それを乗り越えることでモチベーション維持の助けにもなります。
また、インプットについて論じているあらゆる情報を見てみても、
目標や目的をしっかり持つことで内容が頭に入りやすく、
余分な部分を排除することでスピードも向上するとよく言われる。
ようは勉強や情報収集の効率を向上させる助けにもなるということです。
このように多くのメリットがるからこそ、
目標の立て方といったジャンルがあらわれ、
そこに多くの需要が生まれているのでしょう。
かく言う僕自身もビジネスの成功には適切な目標の立て方や、
情熱を傾けられる明確な目的を持つのが大事だとよくお話してます。
ですが、成長とイノベーションという2つの場面において、
目標を立てることがマイナスに働くことがあるのです。
ちなみに成長とは自身の認識範囲を広げるということで、
イノベーションとは新しい何かを生み出すということです。
もしあなたが今よりも成長したいと思うなら、
あるいは何か新しいものやアイディアを生み出したいなら。
明確な目標設定が仇となる可能性が高くなります。
なぜ成長とイノベーションに対して目標設定がマイナスなのか
ではなぜ、目標設定が成長やイノベーションにマイナスなのか?
目標は自身の認識範囲内でしか設定できないことに加え、
目標設定することで視野が限定されるからです。
と言われてもイマイチ実感がわかないでしょう。
このことを実感してもらうには認識範囲とは何かについて、
まず詳しく知ってもらう必要があります。
認識範囲とは自身が経験したこと、知っていること、
想像しうることの範囲内にある物事のことです。
自分が実際に行動して得た経験や、
インプットした知識や情報の数々。
そして、それらをもとにまだ見ぬ何かを"想像"する、
自分の知らない、経験したこともない何かを思い描ける。
そんな人のもっとも特出した性質を含め把握できる範囲を、
僕は認識範囲と呼んでいます。
認識範囲は持っている知識や情報、経験に加え、
それらを効果的に組み合わせる連結力などの要素が絡み、
人によってその範囲はさまざま。
とはいえ共通して言えることはある個人が目標を立てられる、
ゴールまでの道筋を具体的に描くことができるのは、
その人の認識範囲内によるということです。
つまり目標とは現在のその人が思い描ける範囲の物事を、
自身の最大限の力を効率的に運用して実現するための手段。
自分の現在の力を最大限に発揮するためのツールということです。
逆に言えば目標は認識範囲を超える物事に到達させてくれない、
自分の認識範囲外までの道筋はどうやっても思い描けない。
だから、現在の自分より高い視点を持つための成長や、
斬新なアイディアを生み出すイノベーションなどは、
目標を立てることでは到達できないもの。
むしろ、目標を立てることで視野が限定され、
悪影響を及ぼすことがあります。
先程お話したように目標は認識範囲内の物事を、
効率的に実現するためのツールです。
効率的とは無駄なく最短距離を進むことですが、
最短距離で自分が知っている範囲の道だけを進んでも、
現在の自分の認識範囲を超えることはありません。
カーナビとかを使って目的地に行くことを考えてみてください。
カーナビは目標地点までの最も効率の良いルートを示し、
それに沿って運転すれば早くそこまでたどり着けるでしょう。
一度道順を覚えれば何度でも最短距離で行くこともできます。
ですが、その道の外にある物事を知ることはできません。
自分には自分の認識範囲内に行きたい場所があって、
最短距離でたどり着ける(と思っている)道を知っている。
だから、そこ以外に目を向ける必要がないと考えてしまい、
もしかしたらもっと最短距離で進める道がある可能性や、
これまで思いつきもしなかった目的地がある可能性。
そういったさまざまな可能性の数々を目標を立てることによって、
視野狭窄になってしまった自分自身が潰してしまうことがある。
成長やイノベーションを阻害してしまうことになるのです。
目標によって生まれる悪影響を排除するには
では、目標によって生まれる視野狭窄などの悪影響を排除し、
成長やイノベーションを実現するにはどうすればよいのか?
まず、常に意識しておいてほしいのが何度もお話している、
目標は自分の認識範囲内でしか設定できないということです。
自分では強く実現したいと思っている目標や、
そこに至るまでの明確で具体的な方法等の数々。
それらはあくまでも自分が知っていること経験したこと、
それによって思い描ける想像の範囲内の物事にすぎない。
その範囲の外にはより広大な世界が広がっている。
自分が今最善だと思っている目標は、
あくまでも今の自分が思っているだけ。
この事実を受け入れることがまず真っ先にやるべきことです。
目標は認識範囲内ということは、
立てるときも実際に行動に移すときも、
常に意識しておくと良いですよ。
この前提をきちんと受け入れたうえですぐにでもできる、
悪影響を排除する具体的な方法を2つ紹介します。
他人の認識範囲を活用すること、目標を忘れる時間を作ることです。
他人の認識範囲を活用する
認識範囲を広げるのには時間がかかります。
経験も知識も人生という有限の時を生きる人間には、
積み上げられる量に限界があるからです。
どれだけ地力や環境に恵まれたとしても大抵の一個人の力で、
認識範囲が圧倒的に広くまた深く広がることはないでしょう。
ですから最も手っ取り早く認識範囲を広げる、
つまりは成長やイノベーションを実現する方法。
それが自分以外の誰かの認識範囲を活用することです。
現代ではこの他人の認識範囲を活用するということが、
ネットの発達によって比較的簡単にできるようになりました。
世界中の様々な情報源にアクセスすることはもちろん、
実際の個人と交流し情報交換することも可能。
自分では思いもつかないような考え方や価値観、
想像もできないような多種多様な経験の数々。
それらが認識範囲の一時的な拡張の助けとなり、
実際に身につけることで成長することも、
これまでにないアイディアを生み出すこともできる。
ただ、この他人の認識範囲を活用する方法を実践するには、
自分の外の認識範囲の広がりを受け入れること。
世の中には様々な考え方や価値観が存在するということを、
善悪を度外視してとりあえず受け入れることが必須です。
大抵の人は自分の考え方や価値観にそぐわないものを見ると、
ついつい悪いものだと考えて否定しまいがち。
ですが否定は成長やイノベーションを阻害する、
最大の要因と言っても良いです。
何を軸にするかを考えるときに善悪等の基準を使って、
優先順位をつけて大切なものを決めるのは必要でしょう。
ですが、認識範囲を広げる段階ではどんなものであれ、
とりあえずその糧としてまずは受け入れることが大切。
受け入れるという心構えを作ったうえで意識してほしいのは、
認識範囲には広さと深さという2つの軸があるということです。
認識範囲の広さ
認識範囲の広さとは横軸の広がり。
自分が今知る分野の違うジャンルや、
あるいはまったく外にあるものです。
芸術の音楽というジャンルに詳しいのなら、
絵画や文学などの違うジャンルに視点を移す。
芸術という分野そのものを飛び出して、
ビジネスという分野にあえて触れてみる。
そうして横に範囲を拡大していくのが広さです。
広さを拡大する最大の利点は連結力次第で、
無限の組み合わせのアイディアを創造できること。
例えばアップル創業者のスティーブ・ジョブズは、
パソコンのデザインを考える際。
様々な家庭家電を参考にしたという逸話があります。
当時まだパソコンが一般家庭に普及していなかったころ、
一家に一台パソコンをというビジョンを実現するために、
すでに普及していた様々な家電のデザインを研究。
その結果、家電としての使いご心地はもちろんのこと、
オシャレさも加味されたデザインができあがった。
イノベーション=ジョブズといっても過言ではないですが、
その源泉は認識範囲の広さの拡大のうまさにあったわけですね。
広さは想像力の活用に必須のものですから、
意識して拡大してみることは重要です。
ですが、ただ広げるだけを意識しすぎると、
広く浅くなりすぎてなんの糧にもならない。
そんな状態になってしまうこともあるので、
次の深さを意識することも大切です。
認識範囲の深さ
深さは縦軸のつながりであり、
何かを極める過程の道筋です。
極めることの利点は一点における最大の効率化、
他の追随を許さない深い洞察や知恵を得られること。
極めれば極めるほどあらゆる作業や思考は洗練され、
圧倒的な効率を持って最大の成果を生むことができる。
また、極めた分野において深い洞察を発揮し、
人が見えないものを見て知ることができます。
音楽という道を極めた人であれば他人の演奏を聞いたとき、
その技量や音楽に対する姿勢、あるいは感情なども読み取り、
その人の歩んだ人生の深さなども知ることがあるかもしれません。
また、極めるということはどんな分野であれ、
それだけで一種の権威となり説得力を持ちます。
行動や言葉に重みをもたせることができるのです。
ただ、極めるということは時間がかかるもので、
人生という有限の資源をどれだけ使うかが問題。
あること1つにとことん愛を注げる、
人生すべてを捧げてその分野を極める!
それぐらいの固い意志があればそれはよいことですが、
そうでないならあまり一つのことに固執しすぎると、
自身の可能性を狭めることになりかねないので注意です。
また、一点においては確かに多くのものを得られますが、
広さがないために視野が狭まり世界を見誤ることもあります。
例えば専門家と呼ばれる人たちは一分野の洞察は優れていますが、
あらゆる分野の複合体である世界をその一分野だけで見るために、
しばしば現実に則さない判断や理想論を語ることが多い。
これについては別記事で詳しく解説しているのですが、
深さを極める弊害について理解できると思いますので、
興味があれば読んでみてください。
ここまで認識範囲の広さと深さについてお話しましたが、
はじめのうちはバランスを取るのが重要。
広さと深さを同時に拡大しながら認識範囲を立体的に広げていくと、
より多くの可能性を見いだして、取れる選択肢を増やせるでしょう。
誰かの認識範囲を活用するときも広さか深さか、
どちらを拡大するものなのかをきちんと意識する。
そうして広げていったとき何か一つを極めていく道を取るのか、
あるいはもっと世界を広げていく道を取るのか。
考えていくのが良いと思います。
目標を忘れる時間を作る
さて、他人の認識範囲を活用する方法についてお話しました。
とはいえ、じゃあすぐにでもできるのかというと、
そうでない場合もあるでしょう。
周りに認識範囲を拡大させてくれるような人がいない、
ネットで探してみようにもあまりにも情報量が多すぎて、
何から手を付けるべきかかわからないこともあるかもしれません。
そういうときに大事になるのが目標を忘れる時間を作ること。
何にも縛られない、効率とか一切考えない、
目標地点とかどうでもいい。
そんな時間を一日30分でもいいから作り、
無駄を無駄と思わずに行動してみることです。
好奇心や興味のおもむくまま情報収集しても良い、
図書館などに行って何気なく本を手にとってみても良い、
あえて自分が避けていた分野に突っ込んでも良いでしょう。
とにかく効率とかべき論とか善悪とか全て忘れて、
思うがままに、あらゆるものに触れてみることです。
それが、認識範囲を広げるきっかけになり、
そこからどんな情報を拾っていくのか、
どんな人の認識範囲に触れていくのか。
そういった指針が見えてくることでしょう。
成長やイノベーションを実現したいのであれば、
きっかけのために目標を忘れる時間を作ってみてください。
目標を立てない無駄を許容する精神を持とう
はじめにもお話したように目標を立てることは、
大抵の場面では有効ですし大事なことです。
特に、明日にでも実現したいというぐらい急いでいるなら、
明確な目標を立てて具体的な行動に落とし込み、
順序立てて実行していくことが必要になってくるでしょう。
ですが、今回お話してきたようにそもそも目標は、
認識範囲内でしか立てることができません。
なので自分がどれだけ目標を達成したいと思っても、
それを立てれるだけの認識範囲を持っていなければ、
どれだけ努力しようが達成されることはないのです。
成長やイノベーションのように、
漠然としたゴールの場合は特にそう。
漠然としたゴールに到達するための目標設定で走ったあげく、
手痛い失敗をして自信を喪失してしまい、
挑戦する気力をなくし可能性を閉ざしてしまう。
そんな最悪なパターンに陥ることもあります。
ですからまずというか常日頃から実践すべきなのは、
認識範囲を広げるという意識を持っておくこと。
認識範囲を広げるために重要なのは、
あえて目標から外れることをすることです。
目標には何ら関係ない無駄と思えるようなことに、
あえて全力で取り組む。
自分にとって無駄と思えるものを許容する、
そんなゆとりある精神を持つことです。
それが、認識範囲を広げる大きな助けとなりますし、
ひいては大きな成長やイノベーションを実現する。
現在の自分より大きなことをなす力となりますよ。
では、今回はここまでです。