
マーケター・思考設計士。個人や中小規模ビジネス向けに、マーケティング戦略のアドバイスを主におこなっている。
今回は、ビジネスにおける便利なテクニックなどは、
基本的に別の何かとトレードオフだ、
ということをお話ししようと思います。
マーケティングやセールスの中には、
手っ取り早く成果を上げるための、
便利で簡単なテクニックがいろいろある。
ですが、そういったものは別の何かを失うことで、
帳尻を合わせているということを多くの人は意識してません。
ですがそれを意識し、きちんと把握したうえでおこなわないと、
必ずどこかで思いもよらない障害に直面することになります。
テクニックが生み出すトレードオフ
例えばですがマーケティングやセールスのテクニックに、
ネガティブフレームと呼ばれるものがあります。
ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマンや、
エイモス・トベルスキーが展開した、
プロスペクト理論と呼ばれる意思決定を行う過程のモデルの1つ。
人は利益を得ることよりも損失を回避することを重視するという性質を利用し、
言葉の使い方や表現方法を変えて相手の損失への不安を煽ることで、
成約率(製品が買われる割合など)を上げられるテクニックです。
- 限定30人までは半額で買うことができます
- 限定30人目以降はお値段が2倍になります
これ、両方とも言ってることは同じですが、
前者は半額で買えるという利益を伝えてるのに対して、
後者は値段が倍になるという損失を伝えていますよね。
プロスペクト理論的には後者の方が成約率が上がる、
買ってもらいやすくなるのです。
こんな感じで言葉の使い方や表現を損失にフォーカスすることで、
簡単に成約率が上がったりするわけですから、
自分のマーケティングやセールスに取り入れるのは簡単でしょう。
ですが、損失への不安を強調することで別のものが下がることを、
多くの人は意識していません。
それは、ビジネスに対する相手の満足度。
ネガティブフレームを利用することで成約率は上がりますが、
同時にビジネスに対する苦情やマイナスの評価も出やすくなります。
人は自分の意思で決めたことにマイナスの感情を抱きにくいですが、
やらされた、買わされたと思うほど不満が大きくなる心理があるからです。
損失への不安を煽れば煽るほど相手は買わされたと思いやすくなるので、
その分、買った製品に対する評価などは下がりやすくなる。
苦情や低評価ももらいやすくなるのです。
で、苦情や低評価をもらうほどビジネスへの信頼は下がるので、
長期的に見ると成約率も下がっていくことになる。
結果、ネガティブフレームで安易に上げた成約率が、
将来的には元に戻るかそれ以下になってしまう。
トレードオフということになるのです。
トレードオフによって得るものと失うものを考える
では、ここで先ほどの例で得るものと失うものを考えてみましょう。
ネガティブフレームを使うことで得るものは直近の成約率の向上、
直接的に言えば売上の向上です。
ただし、苦情や低評価などを受けやすくなるので、
既存のお客さんはもちろん、これからのお客さんの信頼も失う。
つまり目先の売上、お金を得ることはできるかもしれませんが、
信頼を失い長期的なビジネス発展への道は閉ざされるかもしれない。
短期的にすぐにでもお金を得られればいいというなら良いですが、
長期的にビジネスをやっていきたいのなら悪手ということになります。
このように、得るものと失うものをきちんと把握して、
自分の目標などに合った方法をとらないと、
最初にお話ししたように思いもよらない障害にぶつかる。
ぶつかって右往左往することになるかもしれないのです。
重要なのはテクニックと核のバランス
とはいえ、まったくテクニックなどに頼らないというのも、
それはそれで問題があったりします。
ビジネスでは売るときなどに価値をうまく伝えられないと、
どれだけ良いものでも売れません。
なので、ある程度テクニックなどを利用して、
買われやすくする努力は重要です。
そのかわりに、多少買わされたという心理があっても、
高い満足度を実現できるように商品やサービスに力をいれるなど。
ビジネスの核となる部分をきちんと充実させることで、
テクニックによる損失をうまく補填するのが大事。
何事も重要なのはバランスです。
バランスを考えずテクニックばかりに偏ったり、
まったく使わなかったりするとビジネスは回らない。
バランスをとるためには得るものと失うもの、
両方をきちんと把握しておくことが必要です。
あなたも、すでに何らかのビジネスをしているのであれば、
提供する価値と使用しているテクニックのバランスを、
1度じっくり見直してみてください。
これから何かしらやりたいというのであれば、
バランスを意識したビジネス構築を意識してみてください。
もしかしたら、大きく飛躍するヒントをつかめるかもしれませんよ。
では、今回はここまでです。